編集後記 〜取材や活動を振り返って〜



    東日本大震災の後、福島では多くの人が傷つきました。「少しでも力になれたら…」という思いで、私たちは福島発の「ひまわりプロジェクト」に関わり始めました。次第に支援の輪が広がり、SILVER TONEメンバーみんなで岡山と福島を行き来するきっかけも生まれました。その頃受けた福島の印象と、今回の取材で見た景色を比べると、ニュースから伝わってくる復興の姿が、よりリアルに感じられ、大きな収穫だったと思います。


     一方、この景色は岡山に居たのでは見られなかったとも思いました。良くも悪くも伝わらないことが多過ぎます。福島と岡山の間に、情報の分断や意識の分断があるのではないかと感じました。また、福島に関わるイベントの来場者に、若年層が少ないことも気になっていました。「伝わっていない」という無力感。その思いが原点となり、音楽を起点につながったクリエイターたちと一緒に、デザインの力で福島への思いを未来につなごう、十代や二十代の若者や子育て世代の方々に関心を持ってもらおうと、このような冊子の製作を発案したのです。なぜなら、本当の意味での復興には相互理解が必要だと思うから。音楽やデザインには、分断を超えていく力、一緒になれる力があると思うからです。


     今回の福島取材では胸が熱くなる経験をしました。福島を日本のフロンティアにしようと、熱意ある人々が中心となって復興に導いている、その魂や心の熱量に感銘を受けました。その反面、誰も口にしないけど、いじめの被害や風評被害など、心の痛みや悲しみ、言いたいことが言えない苦しみもあると感じました。そのことを知ってもらえたら、根拠のない風評被害を防げるのではないか、心ない言葉が誰かの人生を狂わせてしまうことに気づいてもらえるのではないかと祈るような気持ちで、この冊子を製作しました。わずかでも小さな声や問題点を届けられたのではないか、福島と岡山で頑張っている団体の存在を伝えられたのではないかと思います。それは、海に落とした一滴の水ぐらいの影響しかないかもしれません。無力なことは間違いないけどゼロではない、という思いで続けてきました。


     倉敷市真備の豪雨水害で大混乱していた時には、福島から避難された方々が独自のネットワークを使ってきめ細かな支援をしてくださいました。悲しい思いを先に経験された方々のおかげで、こちらの復興の動きは早かったと思います。感謝の気持ちで一杯です。


     私たちは同じ人間です。自分さえ良ければいいとか、自分の生活さえ守れたらそれでいい、そんな気持ちに、私はなれません。今回の取材で、実際に見て知ることの大切さを痛感しました。困っている人がいたら、私は、その人の力になりたい。一人の人間として、日本人として助けたい。福島に行くことで分かることがたくさんあると思います。もちろん、全員が行くことは難しいでしょう。それでも、遠く岡山に居て私たちにできることを考えた時、この冊子が、両者の心の分断を少しでもゆるやかにできる一助となることを願っています。


     私たちは音楽活動を通じて福島の「ひまわりプロジェクト」を知り、「福島を応援したい」という思いから、このプロジェクトを支援してきました。ところが二〇一八年夏、岡山市で開いた「福島の今を伝える」イベントでご来場いただいたお客様から「まだ、福島には支援がいるの?」「ボランティアは必要なの?」という質問を受けました。「岡山の人には福島のことが何も伝わっていないと知ったのと同時に、私自身も反省しました。これまで何度か福島に行き、ライブ活動を通じて福島のことを伝えていたつもりでしたが、まったく伝えることができていなかったから…。「福島」の名前を耳にすると、いまだにマイナスなイメージを持つ方が少なからずおられることも知り、とても悲しい気持ちになりました。


     東日本大震災の被災地・福島県と岡山県との距離は、約九〇〇キロと遠く離れています。その分、情報が入ってこないもどかしさを常に感じています。今回の取材では、実際に福島県に脚を運び、復興している街の活気や元気な福島の人の笑顔に出会えました。本当の意味での復興は、まだまだこれからだと思いますが「頑張っている人がいる」、その活気を感じられたことは本当に良かったと思います。


     私はこれまで何度か福島に行き、福島の人と交流を図ってきましたが、今回は、これまでとは違う場所を訪れ、「はじめましての人に出会い、貴重な経験ができました。私自身も多くの発見がありました。


     福島の野菜を食べないという人がいる現状を知り、もっと伝えられることがあるのではないかと思いました。初めて会ったみなさんは、とても元気な方ばかりでした。何もせず、手をこまねいていても仕方ない、「悲しんでいても進まないからどうにかしないと!」という熱意ある人ばかり。今回、会ったみなさんは、そういう熱意の種みたいな、最初となる人たち。その熱意がまわりの人に伝わって「なんとかしよう」「もう一度、福島の小麦でおいしいパンを作ろう」「福島が元気なところを見せようと地元の人が加わり、動きが起きていると感じました。


     福島のみなさんは、ずっと後ろを振り返っているのではなく、苦しんだ過去を今の活力につなげて頑張っている、日々前進されています。今はネットで情報を集めるなど、遠く離れていても、現地に行かなくてもつながる手段はいくらでもあります。取材での出来事は、できる限りわかりやすく、熱意を持ってお伝えしたつもりです。今、福島では、ボランティアなどの直接的な支援以上に風評被害に対する支えやメンタル面での支えが求められていると感じました。悩んだり、苦しんだりしながらも頑張っている人がいること、福島の人のことを、もっと岡山の人に身近に感じて欲しいと思います。この冊子をお読みいただいたみなさんが「実際に脚を運んでみたい」と少しでも感じていただけて、福島のみなさんの思いを少しでも受け取っていただけるとうれしいです。そして読み終わったら、家族や友達、まわりの人にもお伝えいただければと思います。



    代表

    西山 範彦 (SILVER TONE)


    私たちにできることを、、、と続けてきた結果、この冊子を作ることができました。この冊子では、いろいろな事情で表層の部分しか伝えることができません。取材を通じて感じたことは、東日本大震災から9年、日本メディアから風化しつつあることを感じますが、まだ何も終わっていないこと。何か感じることがあれば、これをきっかけに触れてみてください。




    プロダクトマネージャー

    小杉 みゆき (SILVER TONE)


    東日本大震災を支援する学生や被災された子供たちから言葉を集めて歌を作りました。私たち一人一人のちからは微々たるものですが、歌を大事に歌い紡ぐことで、遠く離れた岡山でも支援の輪を少しずつ広げることができています。一時的な支援ではなく、今だからこそ、寄り添うような支援を続けていけたらと思っています。