NPO法人 野馬土 / 三浦 広志さん




    福島の安全と危険を正しく伝えきることが真の復興への道。


    西山 特定非営利活動法人野馬土(以下、野馬土)は、津波と原発事故の直接被害を受けた浜通り地方の「復興の砦」とうかがいました。被災農家を支え、風評被害対策として福島県内の全ての農産物の放射能測定検査を提案。安全な食品の流通確保にも尽力されたそうですね。


    三浦 当初、国はサンプル検査を指示していましたが、僕ら農家が全部測るようお願いしたんです。


    西山 全量というところが大切?


    三浦 実は、2011年8月、僕は熊本県水俣市に招かれて講演したんですね。そこで「水俣は住民が分断されて酷いことになったから住民同士を喧嘩させないように」と教えていただいたんです。


    西山 福島から岡山に避難している皆さんも、「福島の人を傷つけたくない」「分断しちゃダメだ」と言っています。



    三浦 その通り。同じ被害者が喧嘩するほど不幸なことはない。僕も避難中だから、県外に避難している人は本当に大変だと思う。肩身の狭い思いもしたでしょう。避難って生易しいものじゃない。だからこそ、こういうことは全県一丸となって取り組まなきゃなんないと思い、コメはもちろん、野菜や果物、飲料水、土壌も全部測り尽くしています。


    西山 こういうことは、国の研究機関がするものかと思っていました。


    三浦 何事も、市町村、県、国では農水省と復興庁、この全部にそれぞれ交渉しないと進みません。今、県は2015年から5年間の結果で、放射性物質が基準値を超えなければ全量検査をやめたいという意向を示しています。2020年収穫分から、どのような検査を実施するのか、これから議論していくことになります。


    農家や住民の利益になるなら行政への口出しは遠慮しない。


    西山 「原発20km圏内ツアー」で、世界の報道機関など15000人を受け入れ、情報発信にも努めている理由は?


    三浦 福島の安全と危険、両方を正しく伝えきることが真の復興につながると思うからです。南相馬の沿岸部から浪江にかけて、2016年に避難指示が解除になりましたが、農地は津波・原発被害を受けた当時のまま、荒れた状態のままです。


    西山 僕も見せていただいてショックを受けました。全然、復興していない。


    三浦 津波・原発被害で使えなくなった田畑では今、風車や太陽光などの再生可能エネルギーによる売電を行い、農家が収入を得られるようにしています。ドローンの運行試験も行っています。ここは、日本のフロンティアです。さらに「なりわい」ができる農地にしようと、令和4年からの一部農業再開計画を立て、地権者による推進委員会も動き始めました。国と県、南相馬市の間を何度も往復し、交渉を繰り返してやっと進展します。あの大震災と原発事故で、僕の人生観は完全に変わりました。ここにいる人たちが笑って暮らせるようになることが復興だと思う。だから諦めない。


    福島産米の全量・全袋放射線検査

    「ふくしまプライド」ステッカー(福島県・ふくしまの恵み安全対策協議会)は放射性物質検査済の証。福島県は2012年秋の収穫分から毎年、福島県産のコメの全量・全袋検査を実施しています。食品衛生法に定める一般食品の基準値(100Bq/kg)以下であることを確認して出荷。風評被害対策だけでなく、県民と生産者の安全を確保する目的で安全な食品だけが流通するシステムを作りました。コメ、野菜、果物の他、売買しない農作物も全て測り尽くし、県内どこでも測定できるよう、公民館や大小スーパー、直売所にも機械を設置。これまでの放射性物質検査情報は「ふくしまの恵み」HPで情報を発信しています。


    新しい農業のビジネスモデル

    野馬土は、津波・原発被害を受けた農地を転用して太陽光発電事業を展開し、農家の収入確保に取り組んでいます。南相馬市は2030年までに再生可能エネルギー100%都市を目指して風力発電事業なども推進中。さらに原発被害12市町村は国の補助を受け、営農再開に向けた取り組みを始動。2020年春に推進チームが発足し、農家を戸別訪問して意向を調査します。人工知能(AI)を活用したスマート農業、農地転用の特例措置、担い手探し、休止農地の貸し手と借り手のマッチングなどが予定されています。福島県農業振興課は、避難農業者経営再開支援にも取り組んでいます。


    地域との交流

    地域住民と避難者・帰還者交流事業

    直売所に併設されたカフェで月1回を目安に、お茶会や季節の催し、親子食育体験、手作り味噌仕込み体験会など「食を通じた交流会、手芸ワークショップ、農業体験会、心の復興事業などを開催。さまざまな企画を通して地域住民と避難者、帰還者の交流を図っています。


    野馬土こども夏まつり

    兵庫県立大学学生災害復興支援団体“LAN”のみなさんが2012年から毎年、夏休みに来訪し、農業ボランティアを展開。合わせて楽しい企画で夏祭りを盛り上げ、子どもたちの思い出作りに一役買ってくれます。県外からの一時帰還でも気軽に参加していただけるイベントです。

    特定非営利活動法人 野馬土

    代表理事

    農家

    三浦 広志

    1959年福島県南相馬市出身。福島第一原発の炉心から約12kmの小高地区(海岸から約1km地点)で専業農家を営み、コメや野菜を作っていたが、震災後、津波と原発事故により壊滅的被害を受け、強制避難。一時、大学生の子どもが住む東京に避難し、現在も新地町に避難中。著書に『福島のおコメは安全ですが、食べてくれなくて結構です。』がある。



    特定非営利活動法人 野馬土(のまど)

    福島の被災農家を支えるため、2011年活動開始。農産物・食品の放射能測定検査、直売所・ネットショップ運営の他、原発20km圏内からの避難・移住者と帰還者、地域住民との親睦を目的に1か月1回を目安に交流会を実施。

    福島県相馬市石上字白髭320 

    ☎ 0244-26-8437 https://nomado.info/